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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)404号 判決

靴製造手傳 甲井一(仮名)

外交員 乙尾二男(仮名)

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人甲井一の弁護人都馬有恒被告人乙尾二男の弁護人森誠一の各上告趣旨はいずれも末尾添附別紙記載のとおりである。

しかし現行刑訴法における控訴審は事後審であるから、その性質上、何等か他の理由により第一審判決を破毀して自判する場合の外被告人に定期刑を科すべきか不定期刑を科すべきかについては、第一審判決当時における被告人の年齢を標準として右判決が違法なりや否やを決すべきものであつて此の点原判決に何等違法はない。又必ずしも不定期刑が定期刑より不利益であると断ずることは出来ない(昭和二四年新(そ)第一号同二七年一二月一一日第一小法廷判決参照)。それ故原判決が不定期刑を科した第一審判決を維持したことを以て、違法なりとし又は被告人に不利益なりとし、これを前提として違憲論を主張する論旨はいずれも前提を欠くもので理由がない。その他刑訴法第四〇五条所定の上告理由に該当する論旨なく、又同法第四一一条を適用すべき理由も見当らない。

よつて刑訴第四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

昭和二八年(あ)第四〇四号

被告人 甲井一

弁護人都馬有恒の上告趣意

第一点原判決は上告人の控訴に対し、控訴棄却の判決の言渡をいたしましたが、控訴棄却判決の含むところのものは、上告人の控訴申立は理由なく、従つて第一審判決の、懲役一年以上一年六月以下を、相当として維持するものであります。

上告人の控訴理由は、結局のところ刑の量定の不当と刑の執行猶予を、与へられなかつたことの不服に尽きるのであり、事実関係に於て、第一審判決言渡後に生じた事実を、事情の変更として、控訴の申立をしたものであります。

尤も現行刑事訴訟法に於ける控訴審は、第一審判決に対して、法律上並びに事実上の適否を、事後審査するの審級であり、従つて第一審の判決言渡後に生じた事実については、判断することは出来ない制度であり、原審はこの精神によつて第一審判決言渡後に生じた上告人の控訴理由を考慮することなく、判断されたものでありますが、これは飽迄一般原則でありまして、その結果上告人の基本的人権に対し、法の上から不利益を受ける場合に於ては、憲法違反の問題が生じることを避けられないものであると信じます。

茲に上告人が、上告の趣意といたしますものは、控訴理由にも触れましたが、上告人は昭和六年十一月七日生であり、第一審判決言渡後の、昭和二十六年十一月七日に成年に達しましたので、原判決はこの点に於ても、破棄さるべきものであると謂うにあるのであります。

原審の控訴棄却の判決によりますと、上告人は尚一年以上一年六月以下の懲役に服さなければなりません。

原審に於ては、上告人が成年に達した事実は、第一審判決言渡後に生じた事実として、考慮されなかつたのでありますが、これは例へば第一審判決の言渡後に於て、刑の減免事由が生じたときに於ても、尚第一審判決を維持しなければならない不合意が生じることは明かであります。即ち上告人が短期一年にして出獄するとすれば兎も角長期一年六月を服役するとすればこれは成年に達して居りながら、少年時代の犯罪であつたと云うのみで、斯る不利益を受ける結果となるのでありまして、少年保護の精神にも反することになるのであります。

しかも短期と長期との差六月は、全く裁判による確定的のものでなく、行刑上の処分に委ねられる不合理の結果ともなるのであります。本件の場合に於ける短期と長期との差は六月に過ぎませんが、他の例をかりますと、或は短期と長期との差が、一年とか二年とか生じる判決の言渡があるかも知れないのであります。斯る場合に於ても、なほ第一審判決を維持しなければ、ならないものとすればその不合理であることは、何人にも顕著であると思はれるのであります。

本件の場合と、理論的には何等差違あるものではありません。

要するに原判決は憲法第十一条に保障されて居る上告人の、基本的人権を侵害する憲法違反の判決であると謂はざるを得ないのでありまして、破棄を免れないものと信じます。

昭和二八年(あ)第四〇四号

被告人 乙尾二男

弁護人森誠一の上告趣意

一、原判決には法令違反、憲法違反がある。

原判決は輙く控訴を棄却し不定期刑を維持したが、被告人は昭和七年二月十一日生れであり、昭和二十七年二月十日には満二十年に達している。而して原審判決は右成人に到達した以後の昭和二十七年十二月十五日に宣告された。右は不定期刑を言渡した、原判決以後被告人が成年に達した場合を法令違反でないとした御庁判例(昭和二三年(れ)第一五三八号同二四年六月二九日大法廷判決)の趣旨と解する。然しながら定期刑、不定期刑は被告人の利害に至大な影響を及ぼすものである。すなわち不定期は受刑者の行状等に関する刑務官の主観的恣意的判断如何により加減されるに反し定期刑はかかる危険を有しない。このことは不定期刑が短期刑の三分の一、定期刑亦刑期三分の一を以ていずれも仮釈放の対象となり得ることと重大な関係を持つものといわねばならない。譬えば不定期刑の場合は刑期並に仮釈放共に不確定であり、定期刑の場合は尠くとも仮釈放の有無如何のみが不確定に過ぎない。被告人は憲法第十四条により法の下の平等であらねばならぬ。即ち成人に到達した以後においてなお且つ少年の不定期刑を甘受することは右憲法の精神に背反するものである。宜しく判決言渡時の年齢を標準とすべきものと信ずる。

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